●高精度の内視鏡診断技術により表在がんの早期発見に努めている
食道は、口から胃につながる細長い管(くだ)状の臓器です。食道は体の中心部にあり、気管、心臓、大動脈、肺などの臓器や背骨に囲まれています。また食道の壁は、内側から外側に向かって粘膜(M)(粘膜上皮(EP)・粘膜固有層(LPM)・粘膜筋板(MM))、粘膜下層(SM)、固有筋層(MP)、外膜に分かれています。食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしていて、粘液の分泌や重力で下に流れるとともに、筋肉でできた食道の壁が動くことにより胃に食物を送り込みます。
食道がんは扁平上皮がんと腺がんの2つのがんがありますが、わが国の食道がんのほとんどは扁平上皮がんです。一方、腺がんは逆流性食道炎(胃酸が食道に逆流する)を背景として起こることが多く、欧米では食道がんの半数以上を占めています。 食道がん(扁平上皮がん)は60歳以上に多く、危険因子は主に飲酒と喫煙です。近年、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の方(アルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドを分解する酵素が弱い方)が飲酒を続けると、食道がんのリスクが高いことが明らかになっています。
食道がんは壁深達度(T)により、粘膜内にとどまるものを早期食道がん、粘膜下層までにとどまるものを表在がん、それより深い層に及んでいるがんを進行食道がんに分類されます。 食道がんは比較的早い段階でリンパ節や肝臓・肺などへ転移(てんい)したり、また、大きくなると外膜を越えて隣接する大動脈、気管・気管支などの重要臓器に浸潤(しんじゅん)する場合があります。
食道がんの初期には自覚症状がないことがほとんどです。 早い時期に発見する機会としては、上部消化管内視鏡検査を定期的に受けることが大切です。またがんが進行するにつれて、飲食時の胸の違和感、体重減少、背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状が出現します。
食道がんの精査は主に上部消化管内視鏡検査で行います。食道の内視鏡検査では、粘膜の色や凹凸などを直接観察します。また、がんを疑う病変に対しては、内視鏡で観察しながら鉗子(かんし)と呼ばれる器具で病変の一部を採取(生検)して、顕微鏡による病理診断を行い、がんの有無を調べます。その際にはがんの拡がりや深さを診断しやすくするために、特殊な色素(ヨード色素)を粘膜に散布したり、特殊な波長の光(NBI)を使用し、精度の向上に努めています。
食道がんの進行具合は、各種検査(上部消化管内視鏡検査、超音波内視鏡検査、上部消化管造影検査、CT検査、MRI検査、PET検査、腫瘍マーカーなど)から得られた結果を総合的に判断し、がんの深さ(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔臓器転移の有無(M)から、食道がんの進行度(ステージ)が決まります。低侵襲の治療を行うためには進行度の低い段階で発見することが肝要です。当院では早期の食道がんの発見に努めています。
[食道癌取扱い規約 第11版より引用(一部改変)]
各種検査で得られた結果を総合的に判断し進行度に応じて内視鏡治療、外科治療、化学療法などを行います。
[食道癌診療ガイドライン2017年版より引用(一部改変)]
食道における早期がんに対する内視鏡治療手技が発達し、根治ができる症例が増加しており、従来の治療に代わる新しい治療法として注目されています。根治が期待される病変はリンパ節転移のない早期食道がんです。
当院においても可能なかぎり早期がんに対しては 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection、ESD)[下図]を行っております。治療手技は内視鏡治療用の電気のメスで直接、病変部を切って剥ぎ取る方法です。 切除された食道がんを含む組織は、顕微鏡で詳細に調べます。治療後にがんが残っている可能性や、リンパ節転移の可能性が高いと判断された場合は、手術や化学放射線療法などを追加して行うことがあります。
[国立がん研究センター がん情報サービスより引用(一部改変)]
内視鏡治療では切除しきれない、つまりリンパ節をとる必要があると判断される早期食道がんに対しては胸腔鏡・腹腔鏡手術を行っております。当院では食道がんに対して、頸部・胸部・腹部の3領域に及ぶリンパ節郭清を行い、食道を切除する方法を標準手術としています。従来、食道がんに対する手術は開胸(胸を大きく開ける)、開腹(腹を大きく開ける)手術が行われてきました。現在当院では、胸腔鏡下食道切除術を行っており、3D内視鏡システムを用いた微細な画像により確実なリンパ節郭清を含む食道切除を行っております。また切除した食道を取り出すことおよび胃管作成ための切開創(傷)は上腹部に約5cmで十分であり、腹腔鏡補助下での手術を主に行っております(腹腔鏡下胃管作成術)。